苺のかき氷


 一条が俺にメールをくれた時はもう呑んだくれていてフラフラだった。外はいつのまにか雪だったらしい。居酒屋から動けずにいたら一条が迎えに来た。ミラクル。一条が来たから雪が降ったのだ。順序は逆だが確実にそうだ。

 雨で濡れた路面にボタ雪が降り積もる。その高さはどんどん増していった。俺は安全靴だし群馬育ちで雪道には慣れている。だが一条はタイミング悪く革靴に・・・東京育ち。
 一条は居酒屋から俺を引きずり出して数歩で中国雑技団も真っ青な大転倒をかましたのだった。


うそだろっ・・・あの一条が雪でコケて鼻血・・・?鼻血?ないだろ一条は吐血はしても鼻から血なんか出したりしねーんだよ!どうする?一条呆然としてるぞ当然だよなあの一条が全身お高いフルオーダーメイドスーツとなんかわかんねぇけどバカたけぇ靴履いてドヤ顔で歩いてたあの一条が転んだだけでも空前絶後のカッコ悪さだっていうのに加えて顔面強打だぞあの一条が!なんだって雪なんか降ってんだよ一条の足元をすくう為に降ったんだろそうだよな一条の眩さに嫉妬して天が降らせたんだろ?そうに決まってる けどな一条はそんなこと言われたって納得しねぇ、前だって一条がドアに顔面強打して歯が折れたとき咄嗟に陰謀説で慰めたらボコボコに殴られたじゃないか・・・!なんて言えばいいんだホラしっかりしろよ俺!こんな時の為の閃き力だろうがああああああすげー顔色悪くなってるよ一条やばい鼻血に気付いた!指先についた鼻血呆然とながめてんじゃねーか俺がその指先なめてーよ いや違う今はそんなこと言ってる場合じゃないとにかく一条の心の適切なケアだろイケメン気取って俺出来る男なんです酔い潰れた友人だって軽く担いじゃうぜ歩きしてたら大コケして鼻から血がボタボタ出てることに並々ならぬ恥辱に憤死しそうになっている事実に対する適切なケアだろ 駆け寄れよ俺の足!差し出せ俺の手!なんで出ない!ホラ今だよこの




「一条!苺のかき氷出来てる!!!」

「は・・・?」

 俺は溢れる血が零れ落ちた雪の上にはいつくばった。

「ほら!・・・苺のかき氷!すげー!これ・・・シャクシャク・・・うお・・・シャリシャリ・・・おいこれあまいぜ!うわああうめぇ!一条これ苺だわお前すごいな!」

 一条は無言のまま高そうなハンケチで鼻をぬぐって去って行った。



 甘かった。一条鼻血苺かき氷は本当に甘かったからそのままの感想を言っただけなのに何がいけなかったんだろうか。俺はまだまだ・・・アイツに対する愛情と配慮がたりねぇんだな。




[2012.1.25執筆,同年3.20収納]
あんさんがツイッターで呟いた内容をそのまま店開にした。頂いた感想は「仕事が早いですね^^」だけでした・・・