ラーメン二郎録カイジ




ラーメン二郎コピペを元にした破戒録カイジ+頭文字Dパロです。

二郎の意味が分からない方はコチラ をご参照ください。

2ちゃんねるのコピペやネタ文に嫌悪感のある方の閲覧はオススメしません・・・・・・^^;





 五時間丹念に煮込んだ豚肉とシャッキリと炒めたモヤシ、自家製手打ち麺と研究に研究を重ねたスープ、メーカーに特注するカネシ、アクセントを与えるニンニクそしてそれらすべてを調和させるラード。 うずたかくつまれた野菜をわしわし噛み砕き大豚アブラに舌をテラテラ濡らす、表面に浮いた脂が熱を閉じ込め冷めることをしらないスープに仕上げている。
 大粒の汗を流し麺ごと胃に押し流す。脳を灼く化学調味料に彼の味覚は完全に破壊され侵されていた。今やアブラ・カネシ・グルエースのカクテルハイでしか旨味を感じることはない。ジロリアンの宿命だろう。だが彼はこのことを一度として後悔したことはない。

 緊張をねじ伏せ初二郎でのマシマシコールに完食完飲の鮮烈なデビュー、ジロットメイツを張りファーストロッターとしてゼンマシマシチョモランマをコールするまでそう時間はかからなかった。三田界隈のジロリアンは尊敬と畏怖の念を込めて彼をこう呼ぶ、

“底なし沼セイヤッサ一条”

と。


「てんちょぉ!これから二郎行きませんか!?俺、今度こそ小豚全マシマシ完食してみせます!」
 カジノ全フロアから客が掃けた明け方、グッタリとした場にそぐわず元気いっぱいの村上が一条の前に顔を出した。机に散らばった書類に埋もれうたた寝をしていた一条はハッと意識を取り戻す。2、3度瞬きをして視界に満面の笑みを浮かべた村上を認め、少し嫌そうな顔をした。
「村上・・・お前、貫徹した上に二郎か?冗談は顔だけにしとけよ」
 右の手の甲でしっしと追い払う動作をした後、手元の書類を引き寄せ乱雑に判を押す。
「なんかさらっと酷い事言われた気がしますけどスルーします!いいじゃないですか〜、行きましょうよぅ!ロットバトル!お願いします!俺、この間完食出来なかったの悔しくって、悔しくって、ここンとこロクに眠れてないくらいなんですから!」
 だから妙にテンションが高いのか。苦笑しつつ一条は合点した。
「ああ、分かったから静かにしてくれ。二郎まだ開いてないからそれまで事務所で寝てろよ。そんなんでロットバトルしたら吐くぞ」
「いやったぁぁぁぁぁ!!!伝説のロットマイスターとバトル出来るなんて俺、夢みたいです!ありがとうございます!」
 あのなぁ、ジロリアン気取るならせめて大豚からにしてくれ、と苦言を呈す前に村上はソファに倒れ込んで5秒で寝息を立てていた。二郎を語るにはまだ未熟ながら生き生きとした村上の姿に、盛大なため息を吐きつつもかつての自身が重なって見えた。幸せそうな寝顔が微笑ましい。
「Welcome to 二郎ワールド…」
 そっと呟いた。

 一条と村上が三田店に到着すると、朝もはよから熱いロットバトルが繰り広げられていた。店先で食券を購入し店主に軽く会釈をしてカウンターの端に並び陣取る。現役の頃の一条はトップロティスターとして厳しくロット乱れをオペレートしていたものだが、カジノオーナーに就任したのを機に最前線を退いた。今はかつてのライバル達が後任を受け持って適切なオペレートがなされている。若手も順調に育っているらしいことは店主のロットワークの軽さから読み取れた。お陰でデスロットに出くわしたことはない。日本全国でもこれほど統率の取れた店舗はないだろう。嫉妬からやっかみを受けることも多いが、麺聖・麺将軍がひしめきあう三田店は最も崇高な“ホーリープレイス”と呼んでなんら不都合がないと信じている。
「大ブタW野菜マシニンチョモカラメ」
 一条のコールに周囲がどよめく。引退したとはいえマイスターから迸るオーラに気押されたのだろう、ほとんどのジロリアンが恐縮の体でロットバトルを降りる中、一人の男が高らかに宣言した。
「俺も同じものを。大ブタW野菜マシニンチョモカラメ!」
 思わず目をやる。どれ、どんな奴だ・・・一条の目には女連れで眼光鋭い長髪の男が映った。――ギルティ。心の中で呟く。新人が多いこの時間に女連れでくるとはとんだド素人だ。それにどうも目つきが気に入らない。野良犬の目をしている。
 着丼までの間、会話を盗み聞きするにどうも二人は初二郎。初心者が伝説のロットマイスターに同コール――ギルティ。呪文はどこかで幾種類か調べて何度も何度も復唱してきたのだろう、淀みはなかった。他のロティストが喉元まで出かかったギルティをこらえているのがよく分かる。村上など、今にも殴りかからん勢いだ。だが肝心の一条が動かない為、勝手は許されない。
 店主からあんまりやりすぎないで下さいね、という視線を投げかけられ一条は肩をすくめつつ着丼を受ける。相手は想像以上のチョモランマに驚愕した様子。挙句連れの女から食べきれるの?と心配される始末。果敢にかぶりつくがいつまで経っても麺に辿りつけない。当然だ。策も持たぬシロウトにどうこうできるものではない。



 結局、規定の8分を大幅に過ぎても食べきる様子のない男に、堪え切れなくなったロティスト達が声を荒げる、女連れのデスロッター・・・ギルティ!このデスロット野郎!遊びで二郎に来てんじゃねぇ!ギルティ!店内に木霊するギルティコール。場が徐々に殺気を帯び、女が怯えた顔つきになって店外へほうほうの体で逃げて行った。
「なんだよ・・・ふざけんなよ、お前ら!やめろよ!!」
 長髪の男が、激しく煽りたてていたロティストの一人に殴りかかる。咄嗟に一条が止めに入った。騒ぎを大きくすれば閉店の時間にまでロット乱れが響いてくる。麺聖の名にかけてそれだけは絶対に許さない。
「キミ、もう今日は帰った方がいい。初二郎でマイスターに挑戦するその気概は認める・・・だがロット乱しは許されざる大罪。気合だけではどうにもならないこともある。ココは初心者にはレベルが高すぎると思うな。池袋は難易度が低いから、まずはそこから始めたらどうかな?」
「なんだよテメー・・・偉そうに。たかがラーメンでごちゃごちゃウルセーんだよ!」
“たかがラーメン”・・・ついに禁句を吐く男に一条はカッと目を見開いた。
「お前・・・名前は?」
「はぁ?・・・カイジ。伊藤開司。そういうアンタは?」
「俺は一条誠也だ。・・・伊藤カイジ、覚えておく」
 カイジが出て行った後もしばらく場の雰囲気は重く淀んだままだった。

 ・・・ギルティ。二郎への侮辱。これは戦争だ・・・・・・モストギルティ――!!!





「あの生意気なヤロー、こてんぱんにやられていい気味でしたね!恥ずかしくってもう二度と来れないでしょ!やっぱ店長は最高です!」ニンニクマシマシのアツアツ二郎スープを飲み下しながら村上が饒舌に語る。軽い雑談を交えながらも小ブタ野菜マシ程度であればロットを乱すことなく完食出来るようになってきていた。急激に成長していく村上はとても頼もしい。本人が望めばマイスターへの道も夢物語ではないだろう。
「この業界は狭いからすぐに噂が広まる。あれだけ派手な立ち回りした後だ、池袋でも散々だろうな」一条が含み笑いで大豚に齧り付く。口中に広がる脂の香りが鼻に抜ける瞬間がたまらない。
「あれだけジロリアンの前で盛大に二郎をディスったんだ。ニワカアンチジロリストになっているのが関の山だろう。もう二度と会うことは・・・」
「よお、一条。探したぜ」
「お前は・・・!」
 もう二度と会うことはないだろう、と今しがた語った人物がそこにいるではないか。
「俺だよ、カイジ。伊藤カイジ。忘れてねーだろうな。この間の雪辱戦だ、今日の夜この三田店で待つ。ラスト・スタンド、大ブタ全マシコール一本勝負!」
 どよめく周囲に全く怯むことなくカイジは続ける。
「他のロティストはあんたが選出してかまわない。じゃあな」
「勝手に盛り上がってるところ申し訳ないが今日じゃ俺は二杯目になる。明日にしてくれ」
「なんだよ、伝説のロットマイスターが二杯目の二郎はキツイってか?三田店の麺聖ってのはその程度のレベルなのかよ」
「貴様ぁ!一条さんに向かってなんだその口のきき方は!」
 激昂する村上を制止し、一条は立ち上がった。
「・・・そこまで言われたら引きさがるわけにはいかないな。いいだろう、その野良犬根性、徹底的に叩き潰してやる・・・!」
 全身に纏う憤怒は戦いの狼煙か・・・これまでになく激しいオーラが一条の全身を包んでいた。


 閉店直前の二郎三田店。噂を聞きつけたギャラリー達が詰めかけ、店内は異様な熱気に包まれていた。伝説のジロリストが店の威信を賭けて復活試合!世紀のバトルを目に焼き付けんと今か今かと固唾を飲んで待ちうける。店主も緊張の面持ちでカネシを足す。野菜を盛る指先が震えていた。
 二人の前に突き出される二つの丼。いや、これは既にラーメンではない。アブラ・カネシ・グルエースが三位一体となって織りなす錬金。珠玉。至宝。一筋の閃光・・・!救いそのものといっていい・・・まさに奇跡である・・・!

「店主のはからいで一騎打ちだ・・・二度と二郎の暖簾を潜れないようにしてやるよ、伊藤カイジ」
「ぬかせ、伝説だかなんだかしらねーがなぁ、その高慢ぶっ潰す!」

 カイジが丼に箸を入れた瞬間がバトル開始の合図となった。一条は箸を最奥に突き入れ、麺を引っ張り出し野菜をスープに沈めるようにかき混ぜていく。
「でたぁー!一条さんの秘技・天地返し!!」
「すげぇえはええ!動きに一切の無駄がねぇ!」
「さすがに麺聖の称号は伊達じゃねぇな!こんなの誰も敵うわけねーぜっ!」
 ギャラリーの興奮で場の空気は一気に沸騰した。味が薄くなりがちな野菜を汁に沈めることで馴染ませ、ややもすれば伸びがちな麺を露出させる!圧倒的なアドバンテージである!
「な・・・なんだぁ!?なんだよそりゃあ、反則だろうがっ・・・!」
「ずぞぞっ・・お喋りしてる暇はズゾッ・・無いよカイジくん、ズババッ・・んぐ、早く野菜を始末したらどうだい?ズバッ」
 会話をしながらも恐ろしい早さで麺が胃袋へと収まって行く。
「うう・・・くそっ!」
 野菜に闇雲に箸を突っ込んでかぶり付いていく。その様子を見て、村上は一条の勝ちを確信して薄く笑った。

 敵うわけがない・・・誰も・・店長には・・・!

 一条が闇金の世界に足を踏み入れたのはまだ18歳の頃だ。帝愛金融支店の回収員から異例の昇進、本社見習いから黒服、そして裏カジノオーナーにまでのし上がった。想像を絶する凄まじい茨の道であった。グループ会長から陰湿なイジメを受け何度も心が折れかけた。そうして出来た傷はいつも二郎のラーメンが癒してくれた。脂とカネシにまみれ夢中でロットバトルをしている間だけ帝愛の人間であることを忘れた。ファーストオブファーストのバトルは帝愛の内部紛争以上の過酷さだ。勝ち上がりマイスターとして店主に認められる頃には粉々に砕かれていた自尊心は回復し、気づけば一条はカジノを丸々一つ任されるまでになっていたのである。
 今の自分があるのは二郎のお陰だ。それほどまでに打ち込んだ二郎で負けるわけがない・・・!これはもう自信などという次元の話ではない。確信である!

  積み上げて・・・ここまで積み上げてきたんだっ・・・!
  野菜を・・・カネシを・・・ニンニクを・・・グルエースを・・・・・・!

  不運・・・不遇・・・不条理な壁・・・その全てを飲みこんで俺は“今”を積み上げてきた・・・・!

  お前みたいなぽっと出に・・・負けるはずがない!
  負けるわけにはいかないんだよ・・・伊藤カイジ・・・・・・・!!

 カネシの辛みを野菜の甘みが丸く包み込みグルエースで倍増した旨味が舌を焼く。ぬるぬるとした脂が麺を逃がし箸から落とす。ほとんど犬のようになって丼に食らいついた。湯気に麺の香りが混じり嫌が応にも胃を刺激する。火傷しないギリギリの範囲で麺の温度を落として口に含んだ。吸い込み汁を撒き散らしながらブラックホールへと落とし込んでいく。スープはまだ熱く、喉を鳴らして飲める温度ではなかった。表面にギットリと浮いた脂が保温の役目を果たしなかなか冷めないのだ。その熱で麺は更にのびやすくなる。だからこその天地返し!
 熱でダレた口内はニンニクパンチでリフレッシュさせ、戦闘意欲のネジを巻き直す。ねっとりと麺に絡みつくスープは、野菜から出た水分で徐々に味を変化させていく。その変遷を感じ取りながら野菜を交えつつ麺を胃にぶち込む。スープに沈んだ野菜を引き上げる度にもうもうと湯気が立ち上り顔を背けた。この湯気は二郎ラーメン特有の現象である。脂がふたになっている為に、スープから具材を引き上げるとふたが破れ猛烈な勢いで湯気が噴き出す。その熱に長時間顔面を晒していると、頭に血が集まって胃がうまく動かなくなってしまう。全身の血液を胃に集中させ食しながらも早急な消化を促す!体内コントロールを意のままに行う、これが一流のジロリアンのあるべき姿。一条が底なし沼と呼ばれる所以である――!!

 すげぇ・・・!流石に伊達じゃねぇ、ガリだからってナメてたぜ・・・・
 カイジは焦りを前面に出すことを躊躇わなかった。気にしている余裕すら無かった為である。ほんの少しでも気を抜けばおいていかれる・・・!それはもう本能的に悟らされた。人を相手にしていると思うのはやめた。

  コイツは噂通りの沼・・・・麺喰い沼・セイヤッサ一条!
  震えがくるぜ、どの二郎にもこんな奴はいなかった・・・!

 丼は野菜が姿を消し、スープにずっしりと太麺が沈んでいる。上にのった野菜ばかり消費していたせいで、スープの撹拌がほとんど行われていない・・・つまり、温度がほとんど下がっていない!あつあつのままである!

 箸を突っ込んで引っかかった麺を口に運ぶ。ぬるついて容量を増したそれは喉を圧迫し飲み下すのにひと呼吸かかる。舌に触れる麺はまだ熱いままである。熱でダレたまま、どうすることもできず麺をすするカイジを見て、ギャラリー達は失笑を禁じ得ない。

「一条さんの丼は・・・・もう残り僅かだ!具の完食は目前!あとはスープを飲み干すだけだぜ!」
「ひゃっほーーー!すげぇぜ!対するカイジは・・・まだまだ残ってンじゃねーか、話にならねぇ!・・・・・・あぁ!?」
「なん・・・だとぉ!?」
「おあああああああーーーーーー!?」
「て、てめぇ!なにしてんだぁぁぁぁ!!!!!」

 カイジは極太麺を引き上げ、懐からハサミを取り出し・・・滝の様にスープを滴らせる麺に刃を入れた!麺を細かく刻んでいく!!
 切られた麺に冷水をぶち込み、スープにざっと混ぜると、そのまま噛み砕くことなく飲み込む!
ほとんど流動食状態である!

「な・・・んだとぉ!?」
 目の前で何が起きているか理解できない。焦った一条はリズムを崩した。その瞬間、舌が痺れ感覚が麻痺する。野菜を噛んでいる感触が鈍くなる。

  くそっ・・・ここにきて二杯目の二郎が重く効いてきやがる・・・・!

 一条、痛恨のミス!今日が二杯目の二郎だということを失念していたのである。野菜を無理に飲み下してむせればそれだけタイムロスになる。かといっていつまでも噛み砕いていては当然減らない!それ以上に、スープを飲み下すことが苦痛である・・・長く二郎に通い詰めた一条にとってそれは初めての経験であった・・・!

 対するカイジは喉を鳴らし麺ごとスープを押し流す。リズムに全く狂いが無い・・・!


  クソッなんてことだ・・・
  俺は長いこと二郎に通ってるが・・・・
  こんな戦略は見たことも聞いたこともねぇ・・・!
  いや、思いついたところでやろうとする奴はまずいない・・・!


「そんな・・・そんなり方は、・・・・ナシなんだよおおおおおおお!!!!!!」


 一条の咆哮が店内に木霊する。間もなくカイジの空になった丼が脂の飛び散ったテーブルに叩きつけられた・・・世紀のバトル、決着である!!!




「・・・認めるよ、カイジ。大した奴だ、お前はもう立派なジロリアンだよ。・・・ロットマスターには向いてないけどな」
 脂と汗でベタベタになり額に張り付いた髪をかき上げながら一条はどうにか声を振り絞った。麺聖としてのプライドがある。ここで反故にすることなど出来ようも無い。
「いや・・・相手がアンタだったから、俺も土壇場であの手を思いついたんだ・・・それに、今日二杯目の二郎なんだろ?よくみて引き分けだろ。またろうぜ、一条」

 周囲のどよめきは収まりそうもない。初め戸惑いの声に悲鳴も混じっていたが、二人が握手を交わすと熱狂的な歓声が上がった。その温かい拍手はいつまでも鳴り止むことはなかった・・・。


〜第一部 完〜



[2011.12.]UP
■あんさんからのリク:
・二郎ラーメンでバトルする二人が読みたい
・一条がラーメンを食べるシーンを克明に書いて
・ニンニクと背脂まみれの二人がくんづほぐれづするところが見たい(こちらは第二部で!)


あんさんマジ変態!
ちなみに私は食べたことがありませんし食べる予定もありません^^;

追記2012.3.20:
食べてみました。ブタの餌でした^^;