酷ィ奴らハ皆シ。−2oo5−

【002】


「ゾロ。アタシは、アンタの性癖についてどうこう言う気は無いわ。でもね、コレはなんじゃない?これはもう、喧嘩だとか、痴情沙汰だとか、そういう範疇を超えてるわよ!」

 俺の、遠のきかけた意識を現実に引き戻してくれたのは、ナミさんの低くドスの利いた、でも音量を絞った怒声だった。

「・・・なんだよ、黎明の甘い一時を、邪魔すんなよ」

 ゾロは何の感情も篭らない声で、本当に面倒臭そうにそう言った。


 昨晩、キッチンで夜遅くまでレシピの整理をしていたら、不躾に見張り番のゾロが入ってきた。腹がへったのかと思い、夜食を作ろうと席を立った瞬間、横っ面をぶん殴られた。意味が分からない。全然意味が分からない。喧嘩は日常茶飯事だが、こういう、ルールを無視されるほどの恨みを買う覚えはない。呆然と殴られた箇所を手でおさえると、破れた皮膚から血が滲んでいた。
 クソ剣士の意図は全くもって理解不能で、怒りを覚える前に冷静に理由を求めると「やりたいことやってんだよ」などと歪んだ顔でフザけたことをぬかす。そして躊躇無く気持ちがいいくらいに思いきりよくシャツを真っ二つに裂かれた。確か3万ベリーはしたドスコイパンダのシャツはブリっと音を立てて一瞬にしてただのボロキレになった。それですさまじくアタマにきて俺も応戦して蹴り返した。理由も無く殴られることには慣れているが、腹が立つことにはかわりが無い。

 痛いし。痛い上に意味は分かんねーし高いシャツはダメにされるわでもう何に怒りを覚えていいかすらも分かんねーし。
 仕舞いには床でもみくちゃになっていたらいつの間にか突っ込まれていた。それはもうガッついている十代盛り頃の男の成せる業で、俺も呆然とするほどの早さと手際の良さだった。

 抵抗すればしただけ殴る蹴るの応酬で、とてもじゃないが出す出さないの話ではない。それでも数時間後にはそこらじゅう体液でぐちょぐちょになっているんだからヒトって不思議だ。
 つまりは、結局、クタクタになるまで陵辱されて、一息ついたと思ったらナミさんに出くわしてしまった、というわけだ。ろくに着物も無く、ぼろきれみたいに転がる俺は、麗しいレディの目にはさぞや惨めに映っただろう。

「ふざけたこと言ってんじゃないわよ!!」

 ナミさんの叱責にようやっとまともに顔を上げたゾロは、剣呑とした目でナミさんを見遣った。それはもう本当に抜き身の刀で切って捨てかねないような殺気で、慣れた俺でも肌がピリピリと痛むのを感じた。

「じゃあお前が相手してくれンのかよ?お前の代わりにコイツが犠牲払ってンだ、コイツに感謝するんだな」

 サイテーだ。とんだクソ野郎だなゾロよ。お前ソレってホントにサイテーな言い草だぞ。そりゃ言わないお約束ってモンだろう。でも、グロッキーで起き上がれないってフリして、もう眠くてダルイって理由だけでこうやって何もフォローせずに寝転がってるだけの俺はもっとクソだ。
 ナミさんは怒りでブルブル震えていた。
 その後にすぐ、ルフィが現れた。というか、ナミさんの後ろに最初から居たのかもしれない。

「おい、ゾロ。ちょっと、甲板出ろ」

 キャプテンに命令されると、ゾロは素直に出て行った。ルフィの表情は、麦わらが濃い影を落としてよく見えなかったが、あの口調から察するに相当ご立腹のようだ。
 ゾロと、とりわけ、俺に対して、だろう、きっと。
 しばらくして、肉を打つ鈍い音が遠くから聞こえてきた。その調子からして、一方的にルフィが殴っているのが想像できた。

「サンジくん、手当てするから、見られたくないところは隠して」
 ナミさんはそう宣言すると、薬箱の蓋を開けた。口調は厳しかったけれど、手つきは優しかった。

 やっぱり惚れるなぁ・・・。

 手当ても半ばを過ぎた辺りで、俺は聞いた。

「ナミさん、怒ってる?」
「怒ってるわよ」

 実に、非常に簡潔な答えだった。どうして俺はこの人に心底恋しなかったんだろう。・・・って、そんなこと言ったら、俺がまるでゾロに溺れてるみてーじゃねーか、キモチワルイ。クソキモイ。

「チョッパーが、その薬箱貸してくれたんですか?」
「これは、自前よ。こんなトコ見たら、いくら医者だって、卒倒しちゃうじゃない」

 思わず俺は安堵の溜息を漏らした。これ以上、チョッパーに残酷な思いだけはさせたくなかったが、これは偽善というものだろう。途端に自己嫌悪がジクジクと腹の奥で熱を持った。

「今頃、ルフィが、サンジくんのかわりにアイツのことボコボコにしてくれてるわよ。・・・サンジくんは、殴れないもんね」

 オレとナミさんから乾いた笑いが漏れた。

「・・・ルフィは、本当は、俺のことを殴りたいんじゃないのかな」
「ルフィの考えが、気になるの?」

 俺は黙って頷いた。とりわけアイツの考えていることは分からない。それは年下のクセに、とかそいう次元を超えた疑問だった。

「ルフィはね、“俺はキャプテンだけど、そっちのことまで面倒見切れない、出来るのはケジメをつけることくらいなもんだ”って。男に拳は必要だけど、利己的な暴力は許せない、そういうことじゃないかしら」

 なんで『利己的な暴力』なことまで筒抜けなんだ。
 それが顔に出ていたのか、ナミさんはニヤリと笑った。その笑顔が恐ろしくって、それ以上は聞けなかった。

「怒ってないのね」
「え?」
「ゾロに強姦されたこと、全然怒ってないのね」
「そりゃムカついてますけど・・・ちょっと・・・特級の狂犬にしつこく噛まれた様なモンですから」
「・・・アンタ達の考えることは、凡人のアタシたちには理解しかねるわ」


「“なんでお前は俺に殴らせるようなことをするんだ。”」


 俺の唐突な一言に、ナミさんは処置の手を止めた。

「クソ剣士は、俺を殴ってるとき、そう言ってました」

 ナミさんの口元が声も出さず微かに動いた。かわいそうに、と言っている様に見えた。

 カワイソウ?じゃあ、ゾロを受け入れられずクスリ喰ってなお掘られている俺と、そんな俺を持て余して拳を振るい精液を垂れ流すゾロと、どちらがよりカワイソウな存在なんだ?


「こういうことに、どっちか一方だけが悪いなんてことはないってコトかしら?」

 ナミさんはそう言うと、薬箱を持って、出て行った。ドアが閉まる瞬間、肩を見ると、小刻みに震えていた。






「お前らさぁ、付き合っちゃえば?」

「「はぁ???」」

 ここは砲列甲板兼碇綱格納庫。ウソップ工場の前で、俺とゾロは、今なお妙チキリンな部品を捏ね繰り回しながら珍妙なコトを口にするウソップに対して素っ頓狂な声を上げていた。

「あ?だってさ、お前らセックスしてんだろ?なら付き合うってのは普通の流れだろ?」
「セフレってのもあるだろ」

 おぉ、ゾロの口からそんな下卑た単語が聞けるとは思わなかった。というか、俺たちはセフレなんてステキな関係でも無いだろうに。

「セフレって・・・味気ねーこと言うのな。いいじゃねーか、ギジ。ギジレンアイ。そーすりゃ、サンジの・・・なんだかよくわかんねーが、モヤモヤか?鬱か?そんなのも少しは良くなるだろ」

 コイツは、意外と肝が小さい様でなかなかどうして座っているヤツだ。そうでなけりゃ、ルフィも船には乗せなかっただろうが。臆面も無く丸っきりキャラでもないコトバがスラスラ出てくるのは、俺を思いやっての正義感と勘違いしてもいいものなのか?
 どちらにしろ、ウソップの言いように、ゾロは呆れ返っていた。オレもそれは同じだった。

「・・・そういう発想は、したことが無かったな」

 ゾロは呟くと黙りこくり、時折うーんと唸って見せた。
 オレはもう失語症にかかったみたいにアホ面下げて突っ立っていた。
 オレもゾロも、今朝のことがあったから体中痣だらけだ。そんなギシギシの体を押して呼ばれたから仕方なく来てみれば、そんなこと聞かされる。

「じゃ、付き合うか」

「あ゛え゛!??」

 ゾロのその一言に、オレはゲロ吐きそうな声を出していた。つーかうっかりゲロりそうになった。
 なんだなんだ、そりゃどういう心境の変化だ。冗談だろう。

「ルフィに迷惑がかかるからな」

 お前、その判断基準絶対的に間違ってる。ルフィ信者もここまでくるとホンモノかもしれない。で、オレに相手を選ぶ権利や拒否権などは毛頭無いわけだ。
 まぁ俺も、ルフィの名前出されたら逆らうわけにはいかないが。

 だがな、お前となんか“付き合う”って、一体何をどうしろって言うんだ。

「おし、決まりだ。と、ゆーわけで、お前らは晴れて公認の仲だ。好きな様にイチャついてくれ」

 ウソップは言うと、指を下に向け手の甲を見せて“シッシッ”という動作をした。
 その合図に、俺たちは素直に甲板へ出た。ちょうど天辺に来ている太陽がさんさんと頭上に降り注ぎ、血の足りない俺はクラっときた。

 ゾロはそのまま俺を振り向きもせずに後方甲板へと向かった。大方トレーニングの続きでもするつもりなんだろう。だからオレも、昼食の用意をするため、真っ直ぐキッチンへと向かった。






 クソ剣豪と「お付き合い」らしいモノが始まって5日が経った。
 だがあれから特別なことは何も無い。「お付き合い」が始まってからゾロと一度もセックスしていないことが特別といえば特別かもしれないが、その程度の事だ。

 ところが、ソレは突然再開した。


「ヤろうぜ」


 いつもと全く変わらない口調。
 変わらない文句。
 ふてぶてしい、その態度。
 不自然なくらい、自然に投げつけられるその一言。
 ただ、顔だけは、いつになく無表情だった。コイツは普段仏頂面で通っているが、実はそう見えて表情は豊かだ。いつもは良く動く顔の筋肉を、必死に骨に押さえつけて動かないようにしている感じだった。とてもじゃないが、これからセックスをするような顔では無いし、誘い文句を吐くような顔でもない。

 何を堪えてるんだか。

 面白くなった俺は、当たり前のようにゾロの相手をしてやることにした。






 久しぶりのゾロとのセックスは、とても律儀な運びとなった。丁寧と言うか、逐一の仕事がとてもキッチリとしている。動きに、以前あったような暗い情熱が無い。まるでハウトゥーセックス本を端から端までキッチリと読んだ後の男みたいな、役所染みた冷淡さだ。人間性が無い。味の抜けたスルメを齧ってるみたいだ。それに、一言も発しない。ただ、乗り気じゃないというワケでもなさそうだった。アソコは立派にイキリ勃っていたからだ。いくら若いからって、ヤる気も無いのに、まして男相手に勃起するのは相当な芸当を持ち合わせているか、ホンモノかぐらいしかない。そしてゾロは断じてホンモノではなかった。俺もそうだ。そうでなければ、今こんなややこしい状況には陥っていない。

 何ヶ月か振りかで珍しくもキチンとゴムを装着したゾロは、最後に苦しそうにぐっと呻くと、ブルッと体を震わせて俺の中でイッた。俺はもうとっくに爆ぜていて、ただ呼吸だけが荒かった。

 情事の余韻に浸ることも無く、体液も拭かず俺はズリズリ動くと全裸のままタバコに手を伸ばした。シガーを一本抜き取って咥え、火を探しているといつの間にかゾロが棒立ちになって俺を見ていた。見つめている、と言ってもいいくらいに真剣に見ていた。コイツも全裸だったが、月の明かりがうまい具合にグロテクスな下半身を隠し、上半身だけを明るく照らし出していた。

「俺は、俺がお前をビョウキにさせたとは思ってねぇ」

 ゾロは唐突に言った。

「ぁあ?ったりめーだろ、ンなこと言ったら死ぬほどケリくれんぞ、クラァ」

 と、いうか、だから俺はビョーキじゃねぇっての。
 起き上がりながらそう付け加えて言い、俺がふざけてゾロの腹に軽くケリを入れると、マリモは珍しくよろけた。

 ギョッとして顔を見ると、最中にも見せた、いかにも「苦渋に満ちた」という感じのツラを晒していた。5日前、俺を犯す直前に見せた、あのカオをもっとぐちゃっと潰した感じの。
 それを見ていたら、突然俺の心臓が跳ねた。
 そのまま詰め寄り、ゾロのカオを掴んでぐいっと引き寄せて、咥えていたタバコを捨てると噛み付くように唇を押し当てた。
 頬よりも少し柔らかい皮膚に、同じような感触の皮膚が重なり合う。
 その感触の異様さに俺の心臓はますます暴れ狂っていた。そういえば、クソマリモとなんか「キス」のようなものをするのは、多分コレが初めてだろう。
 頭をガッチリ抱え込み、口内に舌を割り込ませてなぞると、ゾロの背中がぶるっと僅かに震えた。そのまま舌を吸い上げては唇を噛み、嘗め回しては食む、を繰り返す。レディに振る舞う時と同じような極上のキスに、ゾロの舌は特に面白い反応は返してこなかったが、かまうことは無かった。舌が蠢く代わりに、ゾロの皮膚は徐々に湿り気を帯びて熱くなっていった。感じているのかもしれないが下は見ないようにした。自分のモノなんかとっくに勃ち上がっていて、それを見るのが嫌だったからだ。

「・・・っふ、くっくっくっくっく・・・・・・」

 とてつもなく異様な感触だった。あんまりにも不自然すぎる。それなのに、どうしてこんなに全身の血が蕩けそうになるんだ。その不協和音のデタラメさに、俺は何時の間にか笑っていた。

 この感情が指し示すベクトルの先に、プラスのエネルギーを期待するのはお門違いというものだ。
 そのベクトルの先に、ゾロは俺に対する嫌悪を、俺はゾロに対する蔑視を垣間見ている。
 俺たちは決して交わらない。決して交差しないこの2直線を嘆くのは身の程知らずなんだろうか。
 もっと言えば、多分、俺はゾロとヤるのは嫌いじゃない。相手がゾロじゃなくったって問題は無いが、ただ、今は、ゾロである必要がある。お前はどうだか知らないが、俺が今、この先に進むためには不本意ながらもお前が必要なんだと言ったら、コイツは腹を抱えて笑うだろうか。笑い死にするかもしれない。それでいい。

 そう思った瞬間、胸がスーッと冷えていった。それは、冷酷な色を含んだモノではなく、冬の空の冴え冴えとした煌きがあった。

 唇を離し、ゾロの顔を真正面から見る。マリモは、俯いて、これから切腹でもしそうな、神妙な顔つきをしているのに、顔は薄紅色に染まっていた。俺は13才の処女でも相手にしているような気分になった。 嬉しくなった。

「・・・お前さ、俺のこと、 」

 俺は微笑んでいたのかもしれない。
 だが、その俺の物言いを遮って、ゾロは顔を上げて、言った。


「俺はお前に対して好きだの愛だのって感情はコレっぽっちもねぇ。
 何にもねぇが、執着くらいはある。
 お前は今さっき誰に掘られてた?俺だろ?じゃあ俺のモンだ。
 そしたら執着くらいはするだろう?
 お前は大切な仲間だ。
 だがな、別にお前じゃなきゃならねぇ理由なんざ見当たらねぇンだよ。


 お前とは、ヤリたいだけだ」



言い切った。



ふ、九九くはははははははあはあはあはあは・・・・・・。


あ、あ、ぁ、あ、ああ亜ああぁあああぁぁあ、チクショウ、畜生、ちくしょう!!


テメェ!このクソ野郎!!オレの言おうとしてたこと全部言いやがって!!


お前がそれを言うか?言うかぁ!?その足りねぇマリモ頭に申し訳程度に詰まってるウニみたいな脳ミソをフル回転させて


「ンツラ下げことかよ


 自分でもビックリする位激昂した俺は躊躇なくゾロの腹に蹴りを入れていた。頭に血が上った俺の蹴りなんかいくらでも避けられただろうに、ゾロは避けにせずにそのまままともに喰らった。生身の足が、ゾロの硬い皮膚をぐっと押し潰し、メリ込んで入る感触がダイレクトに伝わってきて、何かドロッとした熱い塊が腹の奥の辺りを侵すのを感じた。

 ついさっき清涼感で満たされていたはずの胸は、今やドロドロに溶けたタールを流し込まれたようにドス黒く煮えたぎっていた。こんなに数分の間に涼しくなったり熱くなったりしたもんだから、肋骨の辺りがキシ、と痛んだ。

 この恨み晴らさずにおくものか、というくらいに遠慮無くボコボコ蹴りまくったが、ゾロは一つも避けずに無表情で全部受けた。それがまた殊更頭にキタ。

 不思議なモノで、そんな状況にも関わらず自分の息子はまだ勃っていた。何故だかもう立派に勃っていた。そうしたらもうヤることなんて一つだ。ろくに回らない俺のアタマは、脊髄反射でゾロに突っ込むことを指示していた。仰向けに倒れたゾロの尻に俺の一物を押し当て、体重をかけると、下からあーとかぎゃーとかぐぅとか小さく聞こえたが、それでもクソマリモは抵抗どころか文句の一つさえも言わなかった。
 穴に押し入った瞬間、ぶ厚い膜を突き破ったような不思議な感覚がした。
 と思ったら、ソコが強烈に締め上げてくるのには閉口した。どこもかしこも筋肉で出来たようなコイツは、尻の穴までご立派過ぎる。だから、ギチギチと音がしそうな摩擦を繰り返すしかなかった。もうこんなのセックスとは言えない。セックスとは呼べないのに、何でだか腰の動きは止まらない。

 ん?オイオイ、コラ、そんなに締めるなっての。こんなんでイッちまったら、俺が早漏みてーじゃねーか。

 変に力を入れてイクのを堪えたら、背骨がグリッと妙な音でも立てそうに軋み、首から肩へと凄まじい不快感が神経を通して全身へ這い回った。それは筋肉が凝り固まっているせいだとすぐに気付いた。

 吐き気が止まず、
 頭重感が常にあり、
 矢鱈に咽が渇き、
 四肢がダルくて、
 もうなんていうかアタマがオカシイ。

 こんなにもガタがきてる原因なんてもう一つしか見当たらない。
 嗚呼、やっぱろくに薬物の知識も無い素人が聞きかじりの目方勘定でジャンキーの真似事なんかやるもんじゃないってことだな。
 コレが終わったら、勿体無いけど全部捨てとこう。
 ゴメンナサイ、麗しきレディよ。もう体の節々が痛いんですよ。

「ぐぅ・・・あっ・・・」

 急に滑りが良くなったな、と思ったら、突っ込んだ穴からしたたか血が流れていた。
 広いデコいっぱいに皺を寄せて苦悶の表情を浮かべ、必死に耐えている様は酷く笑えた。

 俺も慣れるまで散々だったんだよ、ザマァミロ。

 ウンコが逆流してくみてーで気持ちワリーだろ?全然悦くもなんともねぇっての!お前になんか!突っ込まれたところで!なのに突っ込まれると反射で射精しちまう俺ってオカシイ!オカシイ、これは重症なんだよ、分かるか!?俺はお前のデカチン突っ込まれてイケるんだよ、この異常さがお前でも今なら分かるだろう!???

 nnん?あ?イテェだと?てめぇ、今痛いとか言ったか??
 マリモのクセに、イテェとかほざくんじゃねぇよ。お前痛覚あったのか。新発見だぜ。

 あーーーーーもうな、もう本当にな、テメェのこの裂けたケツ穴みてーに、俺のプライドはズタズタだよ。

 だと言うのに、コイツは俺の下でうーとかあーとか煩く唸っている。男のくせに喘ぎ声出すなよ、キショいんだよ。
 煩いから乱暴に突き上げたら、今度は音量がデカクなった。とんだ悪循環だ。
 あんまり煩いもんだから、首を絞めてやった。
 それでもコイツは大人しくされるがままになっている。男に、とりわけ俺に突っ込まれてただうーうー唸りながら黙って耐えている。
 俺に黙って突っ込まれてるんだぜ。
 これはスゴイことだ。

「ぁぐ・・・・・・・がはぁっ・・・!」

 ・・・俺は知っている。
 ゾロは、いつも血を流しながらセックスをしている。若いから、しょうがないんだと言い訳をしながら。俺を受け入れることがそんなに苦痛か。俺もヒトのこと言えたモンじゃないが。

 俺もお前も、男相手は心底ムリだ。

 ふと下に目を遣ると、ゾロの萎え切ったペニスが目に入った。
 当たり前だ、こんな状況でギンギンに勃起していたら神経を疑う。
 ただ、その先っちょから、震えるように涙が一粒、零れていた。

「はぁ、はぁっ・・・」

 オレたちはどこへも行けない。
 ドコにも繋がって行けないし、行かない。
 それでも明日からまた平然と何事も無かったかのようにオレはコイツとセックスをするんだろう。しかも突っ込まれる側として、馬鹿の一つ覚えみたいに。
 そう容易に予想される未来に関して、俺は特別痛みを感じない。
 痛くはないが、やるせない。
 怒りはないが、虚しさ位は感じる。

「・・・ち、きしょ、イキそ・・・っ」

 何度振り払ってもまた残像は追ってくる。

“俺の受け入れ方が分からないゾロと、ゾロを受け入れられない俺と、どちらがより哀れな存在なんだろう?”

「あっ・・・クソ、も、出る・・・!」

でも、コレがコイツなりの詫び様なんだとしたら、ちょっと負けそう。








+後日談+



 サンジはその日、夢を見た。延々と続くような夢を見た。

 目の前に人らしい“何か”がいる。だが、曇りガラスが一枚隔てたように輪郭がハッキリと見えず、畏怖と不快感に耐えねばならなかった。
 その“何か”は、常にサンジに付いて離れない。
 サンジの全てを見通したような瞳で監視し続ける。
 サンジはそれを昼間どうということはなく受け入れているが、夜になるとその存在が耐え難くなって毎夜手をかける。殺さなければ。何だか分からないが、コイツを、殺さなければ。
 必要に迫られてソレの首を捻る。ナイフを突き立てる。嬲り殺す。頭を割る。海へ突き落とす。何の手応えも感じないくらいソレはあっさりと絶命する。それでも、ソレは翌朝蘇る。毎夜、絶命し果てても、翌朝にはまた蘇って平然としている。
 だからサンジは毎日考える。どうやったら死ぬ。どうやったら、確実に消えてくれる。

 一月経った頃、つまり、サンジが人らしい“何か”を殺して30回目の夜、サンジは耐えられなくなってソレに聞く。何故お前は俺に付いて回るんだ。何故俺を縛る。何故俺なんだ。
 そいつは答える。“オレじゃない。お前に纏わり付いているのがオレなんじゃなく、オレに纏わり付いて離れないのがお前なんだよ。”

 どこかで聞いたことのある声だった。

 お前。
 お前、誰だ。
 サンジの問いかけに、影は方頬を吊り上げて不吉に笑った。

 途端に、ソレの影が崩れた。見る間にグズグズと溶け出してしまって、原型を留めることなく流れていく。

 完全に崩壊し、煮凝りの様になってしまう直前に、影は言った。


『お前はオレに怯えているだけだ』


 ―――そこで、サンジは、目が覚めた。
 酷く汗をかいていた。キッチンで何時の間にかうたた寝をしていたらしい。それでもダルイ体を引きずり、重い樽を担いで甲板へ出たのは、今日は一度もナミの蜜柑畑に水撒きをしていないことを思い出したからだった。






「おう、サンジ、水撒きか?」

 蜜柑畑へと上がると、また何か小さな機械を捏ね繰り回すウソップがいた。掌ほどの小さな機械は、どうやら前の島で買った中古玩具の類らしく、改造を施している最中だ、と言う。

「そこにいると水かけちまうぜ」

 きっとろくでもない改造に違いない、思いながら口には出さず、警告だけ出すと、ウソップはすわ、一大事とばかりに工具ごと抱えて飛びのいた。

「これなぁ、空飛ぶんだぜ」

 ウソップは機械を眺めながら、嬉しそうに呟いた。

「へぇ。珍しいオモチャだな」

 サンジは感心したように呟いた。

「ここんトコ、お前ら随分静かだな」
「あん?俺、前から声抑えてるつもりだけど?」
「そーいうこっちゃねぇよ!ナマナマしい話をするなっ!じゃなくて、お前、最近いやにゾロに優しいなってハナシだよ!」
「うわ、お前寒いコト言うなよ」

 サンジは思わず後ずさりしていた。

「だってよ、毎日必ず、一品はゾロの好物、献立に入れてるじゃねーか」
「漬物のことか?ありゃ便利だから出してるだけだぜ」
「ほお〜、サンジクンは言い訳がウマイねぇ」

 サンジは間髪入れず“ぁあ!?”と脅しを入れてやろうとしたが、それが何より肯定しているようでカッコ悪いことに気付いた為、寸でで言葉を咽奥に押し込み、フフン、と余裕ぶって笑った。

「じゃあ・・・アレだ、“どうでもいいから、優しく出来る”とでも言えば納得するか?」
「なんだ、好きになったら、優しいだけじゃいられなくなるのが怖いのかよ?」
「・・・ウソップよ、そのジョーク、最高だぜ」

 お前の口からそんな与太が聞けるとはな!サンジは爆笑していた。そんなコックに、ウソップは盛大な溜息を漏らしていた。

「大体なぁ。どうしてアイツの相手する気になったんだよ」
「ん?言い出しっぺはアイツだよ。このままじゃヤバイから、やろうぜってなモンさ。まぁ、周り見たって、海しかねぇもんな。仕方ねぇよ。あぁ、そうだ、ナミさん、あの時の、あの阿呆の言ったこと今でも気にしてねぇかな。全くあの野郎、レディに対する口のきき方ってのを知らねぇよ。あーもっとヒデェ話もあるんだぜ、前の島でよ、 」

 捲くし立てるサンジの言葉を、ウソップは全然聞いていなかった。いつもの様に人差し指と親指をピン、と立て、手を顎にあてがうと、ううむ、と悩む格好を取って動かなかった。おい、お前聞いてんのか、とサンジが言うと、


「・・・なぁ、それって・・・ゾロなりの告白だったって考えられないのか?」


 サンジはヒドイ眩暈を覚えながら、嗚呼、さっきの悪夢は、このことの予知夢だったのかも、と思い、ウソップに蹴りを入れる間も無く蒼白な顔を晒してガクリと膝を崩れさせた。

 あんまりお前が下らねぇコト言うもんだから、腰が抜けちまったぜ!そう言おうと口をパクパクさせたサンジに、ウソップはなおも追い撃ちをかけた。


「あ〜ぁ、こりゃ重症だな。ったく、素直じゃねぇったら」





end.

[2005.6.9 up]
*作中に安定剤について差別的な表現があったように感じられたかもしれませんが、微塵もそんな気はありません。






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