男、ロロノア・ゾロ、未来の大剣豪。
21才にして、ゴーイングメリー号を離れた。
サンジを連れて目指すは、今までかつての船長が選ばなかった航路。
ルフィの、海賊王になる姿を目に焼き付けないまま、再び俺はサンジと二人きりでグランドラインへと滑り出して行った。


・・・の、だが。


今となっては、随分と昔の話のような気がするが、これは、かつての船でのことだ。
メリー号で溢れる性欲を持て余していた俺は、サンジといつの間にか夜を共にする仲になってしまっていた。

“しまっていた”のだ。

だが、コックにしたら案外とまんざらでもなかったらしい。
ある晩、積もりに積もった・・・違うか、募りに募ったレンアイカンジョウを爆発させたサンジに、思いつめ紅潮した顔でアイのコクハクをされた。

俺があーとかうーだとか言っているうちに何故かサンジとコイビトドウシになっていた。
激愛だ。

男と、男が、船の、上で。

その流れで、俺がメリー号を離れると言ったものだから、当然サンジもくっ付いて来た。
俺が船を降りた理由は、別に確たるものは無かった・・・ような気がする。
強いて言えば、船長の気まぐれな航路に足を取られたくなかった、というくらいのものか。
船を降りるときも、そんなことを理由にしたような気がする。
サンジもそうだった。違うか、そうしたんだろう。


“この先は自分で選ぶ”


俺たちはそう口を揃えて船を降りた。









新しいこじんまりとした船で、実際サンジはよく働いている。
メシを作り、トレーニングと海賊狩りで疲れた俺を癒し、拙いながらも天候を読んで航路を決め、戦いで出来た傷を的確な処置でカバーしてくれた。
お陰で、俺は、思う様、剣豪への道にどっぷりと浸かることが出来る。

用意されたメシを食って、風呂入ってクソして寝て、刀振り回していればいいのだから。


二人きりになった当初、誰の目をはばかることなくセックス出来るようになった俺たちは、暇さえあればセックスしていた。

だが、次第に俺はその時間が煩わしくなっていった。

そんな時間があれば、刀を握っていたくなった。


そのうちに、体に触れることも減っていった。

サンジは焦れたようにヒステリーを起こすことが多くなった。
それで俺は、サンジに性的な興味を失くしていった。


そうこうしているうちに、会話も必要最低限になっていった。

何故なら俺は、大剣豪になるためのトレーニングに忙しい。


サンジは段々無表情になっていった。
口数も皆無に等しい。


俺はというと、ひたすらに快適だった。
だって、そうだろう?俺はこの瞬間も剣豪に近づいている。
これはもう最短距離としか言いようがない。
大剣豪への道の、超最短距離だ。
自分を縛る生活の一切合切を、剣へと捧げることが出来る。

何も阻むものが無い。








ある日、つまり今日、今この瞬間。サンジが突然、泣き出した。

犬っころの様にぎゃんぎゃんと喚いている。不満の類らしいが、俺のココロに響いてこない。

なんだぁ?サンジ。そんな、女が腐ったような物の言い方をするんじゃねぇよ。
いいか?サンジ。お前は、お前の献身が実って、一人の男が、それも情夫が、大剣豪になる瞬間を間近で見ることの出来る、世にも稀な人間なんだぞ。


幸運だぞ?
嬉しいだろ?


俺がそう言うと、今度は猛烈に怒りだした。


あぁ?いい加減にしろって??

あぁ、いい加減だなぁ。

そうだ、俺はお前といる時、一番いい加減な男になれるんだ。

俺は、お前といる時だけ、剣豪になること以外考えてなくてイイどーしょもない男になれるんだよ。


いいだろう?





俺がそう言うと、サンジは蒼白になってカタカタと震え出した。
見れば、両の碧眼が、この世の業腹を全てブチ込んだようにドス黒く燃えていた。


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その後、この二人がどこへ向かったかは、誰も知らない。


end.

[2004.11.28 up]