どうしてこんなことになったのか。
激しい言い合いの後には、ゾロが俺の中で暴れていた。
抵抗しても抵抗しても繰り返される行為は、血流を増したペニスを出し入れするという無機質な摩擦。
俺はただ情けなくて涙が零れた。
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××× RESET or GAME OVER?×××
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今日もサンジは、キッチンで何時ものように後片づけと明日の仕込みをしていた。そして、其処へ当たり前の様にゾロが酒を漁りに顔を出し、常にそうしているようにツマミを出してやり、当然の如く酒を酌み交わし、音を殺して錨綱格納庫へ向かえば、今夜もそのままセックスへと傾れ込んでいた。
それが彼らの、昼に見せるものとは違う、もう一つの『日常』。
果てしなく辺り一面に広がる海、その船上で彼らが見つけた数少ない“娯楽”である。
濁った欲望を同じ造りの肉体同士で吐き出すという行いは、多少の疑問を含みつつも快楽には逆らえない。19歳と言う若さがそうさせるのか、余りにも狭すぎる空間がそうさせるのか。
今夜も互いの熱い本流が行き着く先へと流れ出ていき、一応の満足を余韻の中で味わう彼らがいた。二人とも簡易に衣服を纏った姿で板壁に体重を預け、ゾロは腕組みし立ったまま、対照的にサンジは床に腰を落ち着け、黒い塩水しか映し出さない船窓をボンヤリと眺めていた。
会話の無い乾いた空間に、サンジの好むタバコの煙だけがふらふらと漂う。
白い煙が音も無く拡散し、タールの香りが狭い格納庫内に充満し始めた頃、紫煙を嫌ってかゾロは珍しく「先に風呂入る」と一言言い残すと、扉へと近づいていく。
その背中に。
俯いたままサンジは、呑み下した煙を吐き出すように言葉を吐き出していた。
「テメエ、最近、クソつまんなそうにセックスすんのな。」
サンジのその、余りにも突然な一言に、真意が理解出来ないゾロは歩みを止めて振り返る。
「あぁ?何言ってんだ?」
ワケが分からん、といった風に、元々強面の顔が眉根を寄せたことでますます凶悪な面構えになっていく。しかし、そんなゾロを気にもせず、サンジはなおも言葉を続けた。
「ヤッてる間、喋らねえし・・・イクと、ダルそうな顔しかしねえ。んな顔見せられてみろ。堪ったもんじゃねー」
「なに勝手なこと言ってやがる」
突然不満を並べ立てる男に、ゾロの機嫌はあからさまに悪くなっていく。
「はっ、勝手?俺はありのままを言ってるだけだぜ?クソマリモ」
途端、ゾロの額に青筋が見る間に浮いた。
「・・・オイ、喧嘩売ってんのか?クソコック」
「テメエがそれを言うか?」
「・・・くだらねえ」
そう言い捨てると、話はこれで終わりだと言わんばかりにゾロは立ち去ろうとした。
「テメ、逃げんのかよ」
「・・・」
「卑怯者。ヤリ逃げゴーカン野郎」
無言のまま背中を向け、出口へ向かうゾロに、サンジはいよいよ暴言を吐く。
「・・・おい、幾らなんでも、言っていいコトと悪いことが、 」
あんまりな言い様に、取っ手に掛けた手を止め、諌めようと再び振り返ってみれば。
サンジはゾロの言うことなど聞こえていないかの様に言葉を遮り、尚も罵り続けた。
「俺のケツは、テメエのザーメン搾り取る為にあるんじゃねえぞ?」
その一言が発せられた瞬間、空間がざわっと動きを見せて、それまで二人を包んでいた雰囲気をガラリと変えた。端的にその空気を形容すれば、「殺気」という言葉が一番に当てはまるかもしれない。
そして、剣士の声音が一段と低くなった。
「・・・覚悟があって言ってるんだろうな?」
「はは、知ったことかよ。俺は腹立ててるんだぜ?」
「・・・奇遇だな、俺も煮えくり返ってる」
ダン!!
言うが早いか、ゾロは猛烈な勢いでサンジの元に戻り、その左肩を何の手加減も無く蹴り飛ばしていた。見事な金髪が乾いた音を立てて散らばり、彼が咥えていたタバコはその衝撃ですっ飛んでいった。突然我が身を襲った痛みに呻くサンジの胸倉を乱暴に掴むと、そのまま体を間近に引き寄せる。
「何が言いてェんだテメーは。オレがいつテメエを便所みたいに扱った?」
ドスの効いた声は、それだけで怒りの度合いが伺い知れた。
ビリビリとした殺気が刺すように肌を刺激する。
痛みでうまく息の出来ないサンジは、それでもありったけの気力を振り絞って悪態をついていた。
「・・・っふ、・・・怒り、心頭か、大剣豪サマ・・・?ハ、ハ、ザマアねぇな、図星かよ・・・?」
わざと勘に障るような笑い方をし、淫靡で凶悪な視線を眼前の男に向ける。
ゾロはその視線を煩そうに金髪を鷲掴みにし、唇が触れそうなほど顔を寄せた。
それでも、サンジはされるがままになっていた。それが、余計にゾロを苛立たせる。これといった抵抗もせず、しかし、口論は止まらない。
「勝手な思い込みで罵られちゃたまんねえぜ」
「ハっ・・・じゃあ今すぐ抱けよ。せいぜい楽しそうによ!勝手かどうか、確かめりゃいいだろ・・・抱け。抱けよ!!」
「・・・・・・てめ、オカシクなったか・・・?・・・する気はねえよ。相手にしてらんねえ」
この一言に、サンジの瞳がスっと音を立てたように色を失くした。
「腰抜け。テメエは所詮、その程度のヤローなんだな」
そして、サンジのこの返しに、ゾロの瞳もまた色彩を失った。
「・・・・・そんなにヒデエ目に遭いてぇか?」
ゾロの存在が一瞬、虚ろになり、陽炎の様に揺らいだ。張り詰めていたなにがしかの糸が弾けた様な音が、二人の耳に確かに聞こえた。
「いいだろう。テメエの言い分が正しいかどうか、お望み通り、今、確認してやる」
そう言うと、金髪を掴んでいた手は羽織っていただけのシャツに伸びる。
剥ぎ取られ、投げ出されたシャツの近くで、先刻投げ出されたタバコが、静かにジッと燃える音を立てた。
その瞬間から、陵辱が始まった。
今日は一発で止めておいたのは不幸中の幸いだった、とゾロは思った。
欲情も出来ないような心理状態で、散々果てた後にまた行為に持ち込むのは難しい。
今の状態なら、恐らく、刺激されればモノはいきり勃つ。勃起しなければ、今夜の、この行為は、本当の意味で成り立たない。
すっかり衣服を剥ぎ取ったサンジの首、肩、胸、目に付いたトコロ全てに噛み付いた。何の手加減も無く、それこそ本当に食事をするかの如く。その度にサンジは小さく呻き、身じろいだが逃げようとはしなかった。筋張った硬い皮膚に何度もそれを繰り返すうちに、口内にじんわりと鉄錆が広がった。
「へっ、・・・・・・それがテメーの、『楽しい』セックスかよ・・・?ケモノだな、ロロノア・ゾロ」
全身に散った赤い噛み傷の酷さから、痛みでそれどころではないだろうコトは容易に想像しうるその体で、サンジは何も無かったかの様に言い捨てた。流石に表情は歪んでいるが、それすらも余裕の笑みの様でゾロは憤慨する自己を痛烈に感じた。そして、この怒りが行為の間中ずっと存在することを願った。
相変わらず減らない口を塞ぐため、何の遠慮も無くオスを突っ込んだ。サンジは特に抵抗も無く、程なくして息詰まる様な質量になるであろうソレを、大人しく口に含んで舌を這わせる。
その動きに連動するかの様に血流を増していく中心。
線の細い、眉毛の巻いた男が俺の男根を咥えている姿を見て、ふと思った。
刺激されれば、自分のモノはまだいきり勃つ。
これは男相手でも咥えられれば幾らでも勃つという現実。
そして対照的に、男相手にフェラチオを強要されても反抗しない目の前の男。普通だったら相手のブツを食いちぎって嗤うだろう、コイツの気の強さはハンパではない。
しかし今はどうだ、苦しそうに顔をしかめながらもとりあえずは大人しく従っている。
見れば、蹴り倒した左肩は早くも鬱血を見せていた。
きっとコイツも同じコトを想っている。
“俺たちの姿は、端からみてさぞ滑稽だろう。”
女性クルーには手を出さないことは暗黙の了解だった。妊娠されたら面倒だし、まして海上で女の取り合いは命取りになり得る。
その為、ソレはゾロからの誘いで始まった。
同じような背格好、そして同い年、同性という気軽さ。喧嘩はよくするが、それは逆を言えば妙にウマが合うということでもあった。
サンジも、何を深く考えるでも無く軽い気持ちでゾロの誘いにのった。流石に、ゾロにのられることには抵抗を示したが、すんなり進む性交渉に不満は無かった。
陸へ上がれば、お互い何ら問題無く女を抱く。特別、同性愛の嗜好を持たず「流れ」で肉体関係を持った二人に煩わしい感情など一切存在せず、あるのは快適な快楽と男同士という一抹の淋しさだけであった。
しかし、快適であったはずの二人の関係は、皮肉にも同時に新しい感情を育てていく土壌にもなっていた。心の底の繋がりというべきか、精神の通いを感じ始めていたのだ。性と割り切っていた交渉に、突然暗雲が立ち込めた。其れは、水の流れの無い静かな湖面に、石を投げ入れた時の波紋に酷似していたかも知れない。
男女であれば喜ばしい、歓迎されるべき感情は、同性では不安と焦燥しか生まなかった。
ただ不安だった。
剣士として頑なに生きてきたゾロは、この事実に大いに躊躇った。新たな感情に気付くまいと必死になる余り、しばしばサンジに対して不審な態度をとっていたりもした。この「不審な態度」が、サンジに言わせると「つまらなそうなセックス」と取られたらしい。
対して、不審な行動を取られたサンジは。女遊びで色恋事に免疫がついているせいであろうか、はるかに柔軟性を発揮し、体だけ・性だけであった対象に、「心を繋げる」という感覚を悪くないと思い始めていた。
そしてまた、殊更に迷った。
何者をも生み出さない、同じ造りのこの体は、障害となって立ち塞がり、十二分に効力を発揮し続けていたのだ。
サンジのモノはまるで反応を示していなかったが、今のゾロにとってはどうでもイイことだな等と自嘲した。
サンジにしたら幸いに先程の情事でソコはまだ濡れて湿っている。前戯など到底期待されるはずも無いこの行為、苦痛が軽減されるのならそれに越したことは無い。これから来るだろう衝撃を、ただひっそりと待った。
馬乗りにゾロは構わずその湿り気に自らのオスを押し込んだ。本当に捻じ込んだという例えが当てはまっていると思う。先程の情事で見せた気遣いなどまるで一片たりとも見せなかった。ゾロに馴染みきったソコは、裂ける事も無く難なく飲み込み、ペニスを圧迫するには十分な刺激を与え続けた。
ただ虚しく粘膜の擦れ合う音が部屋に鈍く響く。
それだけでゾロが本当にキレているのがよく分かった。それでも許せないのがサンジだった。
俺は女の代わりじゃ無い。
お前が抱いているのは、誰だ?ゾロ。
俺か?
なぁ、俺なのか?
それとも、俺の先に女を投影しているのか。
血を流して、いいように揺さぶられて。
俺は・・・
俺は、何だ?
「う・・・あああああああああ!!!」
出し抜けにサンジは叫び、暴れだした。余りの大声に、ゾロは状況も忘れて慌ててサンジの口を塞ぐ。
「おい・・・っ!何、急に・・・黙れ!暴れんな!!」
それでも、溺れた様にサンジはメチャクチャに手足をバタつかせて暴れ続け、腕力では到底敵うはずも無いゾロに渾身の力で持って抵抗を示す。
その抵抗のタイミングが余りにも突然過ぎて、ゾロはただ訳も分からず、必死に体を押さえつけ、動きを封じることしか考えが回らない。そんな剣士を嘲笑うかの様に、無闇に振りかざされたサンジの爪は、まれにゾロの皮膚を捕らえては赤い線を作っていった。
サンジのこの行動は脅迫観念の様にゾロに迫り、いつものあの疑問詞を、ありありと蘇らせてしまった。
バチっという、脳内で放電が起こった様な音が鳴り、同時に、例えようの無い恐怖がやおら全身を襲いくる。
恐怖は、全ての回路を断つようにゾロを蝕んだ。
・・・・・・・・・・・!!
やめろ・・・やめろ、ヤメロ!!
何も考えさせるな!
何も気付かせるな!
「離せっ・・・離せぇーーー!!!」
そして、このサンジの渾身の叫びが、ゾロの最深の部分に火を付けてしまった。
「ぐ、・・・く・・・ゥあああアアアァっ!!!」
猛然と暴れるサンジの上、緑髪の剣士はその口唇から崩壊の音を自ら奏でた。
「ゾ、ろ?・・・・・・!?・・・くう、ひっ・・・、ーーー!!」
辛うじて残っていた理性が消し去られた後には、目の前の「行為」を猛然と続ける事を選んだ、文字通り「ケモノ」しか残されてはいなかった。
「このっ・・・クッソ、やろう・・・!」
サンジの悪態も、粘膜の擦れ合う虚しい響きの前には既に無力である。
ゾロが流れのままにギシギシと腰を動かせば、内臓がかきまわされているかの様な感覚に、サンジは酷い吐き気をもよおした。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
俺は今までこんな行為を繰り返していたのかと思うと本当に戻してしまいそうだった。コイツの顔にぶちまけてやってもいいが、後処理をするのも面倒だと思った。
それよりも、この惨めさはどうだ。
見れば、ゾロは機械的な処理に没頭しようと必死になっている。これが行き着く先だったのだろうかという考えがフッと浮かんで、全てが瓦解していくような感覚が全身を犯す。
そして、散々暴れていた体をふいに黙らせた。
その横顔に、静かに涙が、頬を伝う。
上にのっていいように体を揺さぶっていた男は、ずっと目を反らしていたのに、相手が抵抗を止めたことでふと合ってしまった視線の先に釘付けになってしまった。サンジの頬を流れる光に、ゾロは苛立たしげに言葉を掛ける。
「ナニ、泣いてんだよ・・・?てめえの望んだコトだろがっ・・・!?」
「ふ・・・下らねえ・・・・・・なんで・・・・・。何で、オレ、テメエと・・・・・・・・」
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「何で、セックスしてんだよ?」
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眩暈がした。
ゾロは思わず汗ばんだ額に手をあてがう。
揺れる視界に、またあの疑問詞が浮かび上がってきた。
“コイツとのセックスは正しいのか?”
精神の繋がりという深海。
この得体の知れない『海』に、いつの間にか二人とも捕らわれていたのかもしれない。
ゾロは、このところ、一つの疑問に囚われていた。
「コイツとのセックスは、正しい選択だったのか?」
いつまででも続くと錯覚させる様な航海。サンジを 愛していると断言するのは難しい。正直なトコロ、どう表現すればいいか分からない。だが、嫌悪は無い。そして、快楽はドコまでも追ってきて、それはまるで侵食の様だった。
ゾロの迷い、気持ちの切り替えという言葉を知らないこの男は、セックスにまでその心配事を持ち込んでいた。それをサンジは敏感に、そして勘違いして受け取った。
ただそれだけのことだった。
「何でかって・・・?男だから、だろ。こすって、精子垂れ流して、それが自然だからだろ?」
「違う!そうじゃねえ!何で分からねえんだよ!」
「分かってねえのはテメエだ!小難しいこと考えてんじゃねえ!何も考えなけりゃ済む話だろ!?」
「考えなけりゃだと!?テメエ、ほんとに脳みそねーんじゃねえの!?この馬鹿クソマリモ!!」
「なにおう!?このクソコック!!能無しはテメエだろがっ!!」
「ああん!?テメエにだけは言われたくねえな!!筋肉馬鹿が、頭までイカレちまったか!?」
「るせえ!!オレを馬鹿呼ばわりしていいのは俺だけだ!!」
先程までの重苦しい険悪さは何処へやら、ふたりは体を繋げたままいつもの小競り合いを始めていた。流石に普段の軽やかさは無いが、日頃そうである言い合い。レベルの低い罵りあいを始めて数分の後、ようやく自分達のおかれている状況とそれに至る経緯を思い出したのか、一度口をつぐんで顔を見合わせると、二人は大笑いをしていた。
「ふ・・・はははははははっ!」
「くっだらねえ・・・ほんっと、下らねーよ。ははは・・・!」
別に何が可笑しいわけでもなく起こった笑いは乾ききっていて、虚しさを投影して聞こえた。お互いにソレを察知したのであろうか、またふいに口を閉ざす。哀しみと怯えが混じりあう視線が、二人の間で交錯していた。
「体が痛てぇ・・・」
息を付くように出たサンジのこの一言で、自分が相手にどんな仕打ちをしたのか、やっと気付いたゾロは慌てて体を離す。ズル、と鈍い音を立てて、まだ硬度を十分に保ったままの肉棒が引き抜かれると、サンジの体は一際大きく跳ね上がった。
「・・・くぅ、・・・は、あ・・・・・・無茶しやがって・・・クソッタレ」
荒く肩で呼吸を繰り返す男は、それでも余裕があるのか、それとも習性なのか、口の悪さは残っていた。それよりもその眼光に鋭さが戻っていることに安堵したゾロは、極力平静を装うことにした。それがサンジに対する、最後の「礼儀」の様に思えたからだ。無理に口端を上げると、先ずは述べなければならないであろう事柄から切り出した。
「自業自得だ。でも、限度ってもんがあったな。悪かった」
それを聞いたサンジは、フ、と短く笑みを作ると、黙したまま近くにあった手ぬぐいで体を清め始めた。それに従ってゾロも、体液で濡れ汚れた体を自分のシャツで乱暴に拭っていく。
重苦しい沈黙の続く中、一通り衣服を纏い、立ち上がったサンジは、床にうな垂れたままになっているゾロにポツリと呟く。
「なあゾロ。今日の、無かったことにしようぜ」
「・・・んなコト、できるのかよ」
突然の不可解な申し出に、動揺が走った。このプライドの高い男が、無理に躯を裂かれた事実を無に帰そうと言ってきたのだ。それも、自ら。
ゾロのこの気持ちを汲み取ったのか否かは分からないが、サンジは揺れるゾロに尚も追い討ちをかける。
「あぁ?だだっ広い海のど真ん中なんだぜ?キモチ切り替えねーとやってらんねえだろーが。・・・俺たちは、目指すモンがあんだからよ」
何かを諦めた様な、虚ろいだ瞳で、サンジは見つめてくる。
「だから、リセットだ」
サンジの表情からは何も読み取れない。だから、何も言えなかったが、サンジのこの言い合いに、同じ思考を共有しているだろうことは想像がついた。
其れは多分、こういうことだろう。
“俺たちの関係には、その位の軽さも、きっと必要なのだ。”
・・・そう、思い込むことにした。
黒い塩水しか映し出さない船窓は、相変わらず海の穏やかさを伝えてくる。
そしてこの二人も、今、危うい穏やかさの上にあった。
開きかけた扉を閉じることで、手に入れた「平穏」の上に。
長くなるであろう航海の中、この想いが退化していくことを願いながら、全てから背を向けた二人を乗せたゴーイングメリー号は、今日も波を割ってその進路へと突き進んでいくのだった。
end. |
[2004.9.24 up]
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